車イスの母は私の顔を見るなり、タオルで目頭を押さえていた。ロビーでの談笑が続いた。
1歳半のひ孫の動画を見せた。
「アレッ?この子誰だい?」
「おばあちゃんのひ孫だよ。」
「あれまあ、孫のユーちゃんそっくりだね。」
「そうだよ、親子だからよく似てるよ。」
「アレッ?この子誰だい?」と、また同じ話になる。5〜6回、同じ話を繰り返して、話題を変える。どうやら母の認知力はかなり低下してきているみたいだ。でもまだ私たちのことはわかる。
帰りがけに母は、
「私がここで元気で楽しく過ごすのが、家族も幸せなんだよなあ。」
と、自分に言い聞かせるようにつぶやいた。
「そうだよ。こうやって元気なオフクロでいてくれるから、家族も幸せだよ。また来るからね。」
私ら夫婦は、施設を後にした。
山歩前の畑では、母の世代の人たちが、腰の曲がった身体で畑を耕していた姿は、どこにも見られない。ほとんどの人が鬼籍の人となった。代わりに・・・
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