2015年6月12日金曜日

登る山から見る山へ 3 スキヤキ?ヤミ鍋?

食卓にはおでんが煮えている。続いてスキヤキがまるでヤミ鍋かのように鎮座した。聞けばスキヤキの汁はエバラ焼肉のタレとか・・・試食してみる・・・ウンうまい!・・・なんじゃこの肉の塊は・・・信州牛を塊のまま入れたんだと・・・ま、いいか・・・食っては飲み、飲んでは食い・・・酔うほどに話に花が咲く。
宿主のKちゃん(女性)、
「私が35歳の時、この別荘を買ったの。それは、これからは家族のために自分の人生を捧げたいからだった。そして60からは自分のための人生と決めて、やりたいことをやってきたの。」
と、語り出した。幾つもの病気を抱えながら、豪快に酒を飲み干している。
「人生、楽しまなくっちゃね〜」


       

続いて気持ちよく酔ってる妻が語り出した。
「料理学校を卒業して最初の店は、懐石料理店だったのよ。初日からいきなり料理のレシピを渡され、この通りに作れって言うの。一目見て、コリャ無理、できないって思ったの。だけど作るしかないから、開き直って作ったわよ。それからというもの、辛くて辛くて、泣きの毎日よ。でも辛抱したわ、だってそうでしょ、ここで挫けたら店なんて開けないもの。必死だったわよ!」
妻の舌は益々滑らかになった。
「それから幾つも店を替えたけど、今じゃ懐石料理店の経験が一番生きてるわね。嬉しかったのはね、産科の病院で食事を作っていた時、メニューは私らに任せられていたから張り合いがあったわねえ。ある時、流産した患者さんに特別料理を作って出したら、戻ってきたお盆にその患者さんからの手紙があったのよ。・・・心のこもった料理を作っていただき、有難うございました。落ち込んでいた私に生きる勇気を与えてくれました・・・これを読んで、料理でもこれほどの影響があることが分かり、益々やる気になれたの。こんなへんぴな場所でお客が来てくれないだろうって心配しなかったのかですって、ゼーンゼーン心配してなかった、いやそんなこと考えもしなかったわ。」

私たち7人は、深い森に優しく包まれていった・・・(481話)


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