2014年3月30日日曜日

オフクロ 6・ちっとも知らなかったよ!

母を施設に迎えに行き、車に載せたら、

「今日は、なんだい?」

「今日は、お袋の誕生祝いを家でやるんだよ。」

「えっ?私はちーっとも知らなかったよ。なんだか身体がふるえてきちゃったよ。」

「お袋の90歳の誕生会をやるの。」

「あれっ、90歳になるんかい?確か3月の何日だったっけかなあ?」

「26日!今日は子、孫、ひ孫全員集まってるから。」

「そうかい、有りがたいなあ。」

といってタオルで涙を拭いている。

席が整い、カンパーイ!

「健夫さん、私は幸せだよ!こんなにも幸せなのは、初めてだよ。」といって、タオルで涙と鼻水を拭っている。その後は、それぞれワイワイと賑やかにしてる中、母のトンチンカンな話が割り込んでくる。現在と過去が入り混じっている。同じ話が繰り返される。家族は慣れたもんで、上手に母の相手をしている。

私が定年退職して、一日中母と接していた頃、認知症が始まっている母の現実が受け入れられず、母を叱り飛ばす毎日だった。私にとって母は元気でしっかり者の母であるべきだった。ところが目の前の母は違っていた。それを許せなかったのだ。1年あまり経って、ようやく現実の母を受け入れることができるようになった。愚かな息子だった。

今は、母に若い頃の話しをしてもらうようにしている。穏やかな関係が戻ってきた。いつまでも笑顔を絶やさない母でいてほしいと思う。

楽しい時間は終わった。施設に帰る時間だ。すると母は、

「なあに、帰るのかい?」

「うん」

「帰るのやだなあ・・・」

と小さくつぶやいた。胸が疼いた。

 

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